編集長コラム 
vol.08: ひとつの「働き方」しか知らない怖さ  2003年12月16日(月)

 もう一ヶ月ほど前になりますが、雪印食品の牛肉偽装表示事件で、現場でそれを指示した部課長クラスの方々に有罪判決(執行猶予)が下されました。判決を受けた5人の方々は48歳から56歳で、各地の生産拠点のセンター長、上級の部長クラスというポジションの人が大半でした。

 この問題は明らかに“顧客より自分たちが儲ればいい”という賤しい会社風土を作った経営者に、その責任はあるかと思います。しかし今回のコラムの目的はその経営者の糾弾にはありません。なぜこの現場の部課長さんたちはこんなことをやってしまったのか、ということです。
 
 他社もやっている偽装表示をしようと考えたのは、この部課長さんたちでした。しかし、それを専務や役員会で相談したところ、「とにかく損をしないように」「必達目標をなんとかクリアするように」という指示しか出なかった、と聞きます。この部課長さんたちはエリートです。年齢と役職から考えれば次期役員の候補だったのかも知れません。

 彼らはいったい、誰のために働いていたのでしょうか。きっとそれぞれの意識にあったのは、「消費者のため」「家族のため」「社員のため」だったのでしょう。狂牛病問題で、経営的に苦しい状態を強いられた会社。その中で、家族や社員を路頭に迷わせないために、考えられるあらゆる手段を講じようと頑張ったのだと思います。しかし、最大の“悪手”である「顧客をだます」という手段に手を染めてしまいました。

 結局、「会社のため」に働いてしまっていたのです。会社のために働き、会社が成長すれば自分も家族も、同僚や社員も、みんなが幸せになる。バブル崩壊までの日本では、そうした働き方のモデルを誰もが疑いなく信じ、それ以外の働き方にはあまり関心を持たず進んできました。

 今回の場合、5人の方々は会社のエリートとして、まさにそうした生き方・働き方を貫き、出世されてきたのだと思います。しかし結果として会社は倒産し、本来守りたかった社員を路頭に迷わせ、家族を周囲からの白い目にさらしてしまうような結果を導いてしまいました。

 最終的にこの事件の責任を問えば、やはりトップである経営者に向けられます。しかし働く私たち一人一人が、しっかりと「顧客」「家族」「社員のため」になる「生き方」「働き方」を決断していれば、そうした賤しさやその風土に甘んじる自分自身に気付けるハズだったのではないかと思うのです。
 
 会社からどんな指示が出ようとも、お客様を不幸にする仕事は絶対しない。そんな「生き方」「働き方」への決意を持つこと。たとえそんなことで解雇されたり、出世ができなくても、家族はきっと応援してくれるでしょうし、評価する他の会社は必ずあるはずです。そうでなくても、少なからず自分自身は、世間に胸を張って生きていける、働いていけるに違いないはずです。

 100人に100通りの「働き方」。バブル崩壊後に社会に出た今の30歳は、自分で自分の「働き方」を決める「新しい時代のトップランナー」です。そしてどんな「働き方」を決断しようとも、最終的に決して後悔をすることのない唯一の観点があります。
 「あなたが頑張って働くことは、自分以外の誰のためですか?」
 家族のため、職場の仲間のため、自分を信頼してくれる人のため、お客様のため、地域のため、社会のため…。迷い少なく働いている30歳は、みんなこの観点が明確です。
 このコラムでは、取材などで出会った方々から学んだこと、気づいたことを、そんな観点から説明していきたいと思います。

★編集長:宮崎 健(ミヤザキ タケシ)

 NPOワーカーズ・オープンコミュニティ・エイド(WOOCA)代表
1962年生まれ。株式会社リクルートに16年間勤務。数百社の採用・研修・CI・広報・イベント企画と、メディアの企画立案・組織オペレーション、働く人のモチベーション研究などに携わる。2002年6月独立し、現在に至る。
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編集長へのメールはmiyazaki@kyoto30.comまで。
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