編集長コラム 
vol.33: 35歳への道(4) 2003年9月16日(火)

 数年前のベンチャーブームを経て、最近では「脱サラして独立・起業したい」と思う人が減っているようです。私は「簡単に会社を辞めるな」という立場の人間ですが、「会社というものにホトホト愛想がつきてどうしても独立したい」と思っている30歳前後の方であれば、とにかく挑戦してみれば良いと思います。
 いまほど独立・起業に社会的なバックアップが整備されている時代はありません。金融機関や行政をはじめとしたさまざまな機関が種々のプログラムで支援をしてくれます。資本金1円で株式会社がつくれたりで、よほど大きな借り入れが必要な事業でなければ簡単に「社長」になれます。

 
しかし、独立・起業は生易しいものでもありません。名刺やハンコ作りから始まって、電話やパソコンの整備、銀行や役所への手続き、各種支払いや経理処理などなど、これまでは誰かがやってくれたことをすべて自分でやらなければならない大変さ。「これまでいかに会社の仕組みのなかで自分が担当する業務に集中させてもらえていたのか」ということを痛感することの連続です。
 会社という信用がバックにあれば取引はもらえていても、独立してしまえば自分という一個人に対する信用がすべてで、簡単には仕事を任せてもらえません。扱い商品が思うように売れなければそれを商品のせいにもできましたが、独立すると自分自身が否定されたような感覚に打ちひしがれることでしょう。
 2〜3日仕事をサボったり、風邪で1週間ダウンしても給料やボーナスが振り込まれるサラリーマンと違い、働いた分しか収入は入ってこないので、よほど自己管理をしっかりしないと食べていけません。人の募集からその管理・育成、そしてその人たちに支払う給料をなんとしても稼ぎ出さなければならない。お金は羽根が生えたように減っていきます。人を雇用してしまえば簡単に事業を放り出すわけにもいきません。そして、細かなことから大きなことまですべてを自分で決断しなければならないことに苦悩します。

 
この経験はとても貴重です。会社というもののシクミ経営というもの、や税金や社会保障などの意味、信頼ある人脈のありがたさや人の冷たさ、自分自身の弱さ・強さなどを、身にしみて理解できます。ですから30歳前後の2〜3年を事業主としてやってみることはとても有益だと思うのです。

 
そしてその中から、事業主として働くことが「自分が大切にしたいこと」を実現する働き方なのか?を考えればいいのです。たしかに誰から指示されるわけでなく自分で考え、自分のやり方で仕事ができることはとても魅力的です。自分の時間も確保しやすいし、事業が軌道に乗れば多くの収入を手にできます。しかしそれと裏腹に、平日・休日関係なく気を張った日常、とてつもなく重い責任、大きな負債をかかえるリスクも背負うことになります。そのことが自分が大切にしたいことに直結するのか? たとえば「家族や友人との時間を大切にしたい」というならば、独立・起業をした当初にはとてもそんなことは実現できません。

 
もしかすると「企業人として働くことのほうが自分らしい働き方なのかも知れない」ということに気づくかも知れません。そして35歳までなら再就職口はまだ確保しやすい。2〜3年のあいだ自分で事業を切り盛りした経験を評価してくれる企業も多いことでしょう。だからこそ、いま30歳前後で「どうしても独立したい」と思うなら、2〜3年という期限を決めて遮二無二やってみれば良いと思います。




 100人に100通りの「働き方」。バブル崩壊後に社会に出た今の30歳は、自分で自分の「働き方」を決める「新しい時代のトップランナー」です。そしてどんな「働き方」を決断しようとも、最終的に決して後悔をすることのない唯一の観点があります。
 「あなたが頑張って働くことは、自分以外の誰のためですか?」
 家族のため、職場の仲間のため、自分を信頼してくれる人のため、お客様のため、地域のため、社会のため…。迷い少なく働いている30歳は、みんなこの観点が明確です。
 このコラムでは、取材などで出会った方々から学んだこと、気づいたことを、そんな観点から説明していきたいと思います。

★編集長:宮崎 健(ミヤザキ タケシ)

 NPOワーカーズ・オープンコミュニティ・エイド(WOOCA)代表
1962年生まれ。株式会社リクルートに16年間勤務。数百社の採用・研修・CI・広報・イベント企画と、メディアの企画立案・組織オペレーション、働く人のモチベーション研究などに携わる。2002年6月独立し、現在に至る。
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編集長へのメールはmiyazaki@kyoto30.comまで。
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