編集長コラム 
vol.70:「やりたいこと」のために何を捨てるのか? 2004年11月9日(火)

 「何かを手に入れようとするなら、他の何かを捨てる覚悟が必要だ」と、私はよく口にします。しかし、後々に悔やんでも悔やみきれないようなことを捨ててしまっては、せっかく頑張って手に入れたものも色褪せてしまいます。「いま大切にしたいことは何なのか?」をしっかり考えて、「捨てること」を慎重に考えることが大切だ、と学ばせてもらったのが、株式会社パソナ京都・派遣社員の石井美帆さん(29歳)の取材でした。
http://www.kyoto30.com/30ishii_f.html
 石井さんは、両親が40代のときに生まれた一人娘で、大きな愛情を注がれて育てられました。集団行動が苦手で、少し地域となじめず、「この小さな町を飛び出したい!」と、一浪の後に生まれ育った佐賀県から、京都の外国語の短大に進学します。
 アルバイトを通じて、初めて親以外の大人や社会の厳しさに直面しながらも、刺激的な仲間たちとの出会いを楽しみますが、憧れだった「通訳」の職はなかなか見つからない。

 「学費ヨロシクネ!」と電話だけで親に伝えて、京都の4年制大学に編入。さまざまな勉強や活動を経ても、「通訳」への道を考えると腰を落ち着けて働く意欲がなかなかわかない。4大卒業後に実家に帰っても、引き止める母を押し切ってまた京都に舞い戻り、契約社員として組織で働くチカラを身につけながらも、語学の勉強をコツコツ続けます。

 そんな中、高齢の父親が体調を崩して入退院を繰り返すようになると、職場の人に迷惑をかけないようにと、いつでも佐賀に帰れるように「派遣社員」としての働き方を選びます。そして1年が立った28歳のときに父親が他界します。
 幸いにもひとり残された母親のことは地元の親族たちが見守ってくれて、石井さんは京都で働き続けることになったのですが、すでに自分の家族を抱えてしまっている年の離れた兄たちに代わって、「私が母の面倒を見るんだ!」と強く決意をされたそうです。

 翻訳の仕事をする友人からは、「語学を仕事にしたいなら東京においでよ」「何かを捨てないと何も手に入らないよ」とも言われたそうです。しかし、大学受験時代からの10数年をかけてスキルを積み重ねてきた憧れの仕事に就くチャンスでも、「やりたいこと」はまだまだいくらでもチャンスがある、「いま大切にしたい母のこと」を優先させた働き方をしよう、と思ったそうです。

 「やりたいこと」「実現したいこと」には早くたどり着きたいし、それで自活できるようになるために他のことには目を瞑ってでも突っ走りたい。しかし、「今しか大切にできないこと」を捨ててまで、それは実現を急ぐべきことなのか? あせる気持ちをなんとか抑えて、そんな視点をときおり自問して行かなければならないのではないでしょうか?

 100人に100通りの「働き方」。バブル崩壊後に社会に出た今の30歳は、自分で自分の「働き方」を決める「新しい時代のトップランナー」です。そしてどんな「働き方」を決断しようとも、最終的に決して後悔をすることのない唯一の観点があります。
 「あなたが頑張って働くことは、自分以外の誰のためですか?」
 家族のため、職場の仲間のため、自分を信頼してくれる人のため、お客様のため、地域のため、社会のため…。迷い少なく働いている30歳は、みんなこの観点が明確です。
 このコラムでは、取材などで出会った方々から学んだこと、気づいたことを、そんな観点から説明していきたいと思います。

★編集長:宮崎 健(ミヤザキ タケシ)

 NPOワーカーズ・オープンコミュニティ・エイド(WOOCA)代表
1962年生まれ。株式会社リクルートに16年間勤務。数百社の採用・研修・CI・広報・イベント企画と、メディアの企画立案・組織オペレーション、働く人のモチベーション研究などに携わる。2002年6月独立し、現在に至る。
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編集長へのメールはmiyazaki@kyoto30.comまで。
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