議論しよう! 顧客でも、上司でも後輩でも、
人が好きだから自分の意見をぶつけられる。
そこに信頼が生まれる。

人間を信じているからこそ、自分の意見をストレートにぶつけられる。相手の意見も受け止められる。高校浪人のときに学んだその姿勢は、社会に出てからも変わらない。6年間勤務した営業所を離れるとき、顧客である福祉施設の責任者は涙を流してくれた。送別旅行として職場の後輩たちや上司と北海道や温泉の旅に出かけた。

小林隆郷
さん 
30歳 京都市在住
[ワタキューセイモア株式会社(下京区)係長]

担任教師を見返そうとして高校浪人に。予備校の友人たちに自分の小ささを学ぶ。

 長野県小県郡に生まれた。中学卒業を目前に控えて、生徒の意見をまったく聞こうとしない先生に完全反抗した。教頭から呼び出されて「親の顔が見てみたい」と言われ、殴りかかった。すべてに反抗していた自分を、見守り続けてくれる両親を否定された怒りが納まらなかった。
 担任から「10年かかっても合格しない」と言われた難関高校を、先生を見返すだけのために受験する。高校浪人するハメになって、予備校へ入学した。
 「理解のない先生にあたったばかりに、自分だけが苦労をしている」。 そんな自己中心的な考え。しかし予備校には、自分の境遇を決して他人のせいにせず、前向きに頑張る50人の仲間たちがいた。
 「お前だけがツライ想いをしているんじゃない。もっと前向きに考えようよ」。仲間たちからそう語りかけられて、頭を打たれた。「なんて器の小さい考えをしていたのか。俺は『自分さえよければよい』、そんな人間だったのか」。
 努力が実ってその難関高校に翌年合格。広い世界で自分を試すために、地元を離れ名古屋の大学に進学した。
 大学では60人規模のサークルを立ち上げ熱心に活動をした。しかし次第に他の幹部たちが意見を言わなくなり、自分の意見がすべてを決めてしまう。忌み嫌っていた中学時代の教師のような「お山の大将」にはなりたくない。少しずつサークル活動から離れていった。


「俺にたてついてくるそのパワー、いいな」。上司や仲間は本気で向き合ってくれた。

 早く就職したい。やったことの評価が明確になる世界で自分を試したい。個人の力で勝負するために、全国規模ながらも知名度の低い会社に入りたかった。 
 顧客との長い付き合いの中で信用を築いていく「リース」という業界に注目した。その業界の一部上場企業の内定式に出席したとき、他の学生たちの意欲の低さに愕然として、その日のうちに辞退した。
 そんな中で、ワタキューセイモアの採用担当・井出本さんの人間性に魅了された。「お前のかーちゃん、すげー人だな!」。電話口に出る母親のことまで認めてくれた。男ぼれした。
 ワタキューは、病院や福祉施設などに寝具を中心に医療関連機器などをリース・販売するリネンサプライ業界の老舗かつリーディング企業。名古屋営業所という、「一度はそこで仕事してみたい」と注目されている職場に配属された。
 そこでは自分の仕事のやり方にプライドを持ったメンバーが、無言の火花を散らしながら競い合い、その一方で他のメンバーの仕事の成功も心から喜び合っていた。 
 職場で、飲み屋で、会社の同僚・後輩たちと常に意見を交換し合った。部下を決して部下と呼ばず、一後輩として向き合った。彼らの意見を上司にぶつけるのも自分の役目だと思っていた。長い歴史をもつ会社の中ではけむたがる他部署の先輩も多かった。「異端児」と見られていた。
 どう見られようとコミュニケーションを投げかけ続けた。顧客へのふとんの入れ替えや施設備品の納入などの現場作業では、ポロシャツとGパン姿で率先して手伝った。「カッコつけた仕事だけをしたがる奴やと思ってたわ」と次第に理解してもらえた。
 ある夜、完璧な仕事ぶりと強烈なリーダーシップでならす上司から、徹底的に叱りつけられた。席を立って帰宅してしまう上司を車に乗り込む直前まで追いかけて、「お言葉ですが納得いきません。私の意見も聞いてください」と詰め寄った。上司は、「俺にたてついてくるそのパワー、いいやないか」と笑顔で言って、再び自分の意見に耳を傾けてくれた。
 女性事務員の自分に対する投げやりな応対を厳しく注意すると、「私たちは営業の人の作業マシンじゃありません」と逆に意見をぶつけられた。仕事を裏で支えてくれる人たちの気持ちを知った。
 中学のときは教師に不満があっても無視を決め込んだ。ここでは意見を本気でぶつければ本気で受け止めてくれた。「人間のもつ力」を信じきってくれる上司や仲間たち。


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